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ポプラズッコケ文学新人賞

今を生きる子どもたちが「お腹を抱えて、笑い、そして心から泣ける」児童文学作品を全国から募集します。

第12回

第12回ポプラズッコケ文学新人賞

「第12回ポプラズッコケ文学新人賞」にご応募くださいました皆さま、誠にありがとうございました。

 今回は一般応募、ウェブ応募と合わせて総数168編のご応募をいただきました。その中から10作品が2次選考へ進みました。5名の弊社編集者が議論を重ねた結果、最終選考に5作品を選出いたしました。
 最終選考では前回に引き続き、特別審査委員に宮川健郎先生をお迎えし、弊社社長、編集本部長、児童書編集グループ長ほか、計13名の選考委員が選考にあたりました。

 最終選考に進んだ5作品は、登場人物たちがみなそれぞれ生きづらさを感じており、クラスでなじめないなどの悩みを抱えている、という共通点があり、LGBTQ+や発達障害を取り上げた作品も見られ、今の子どもたちが置かれる窮屈な環境や、世相を反映していることがうかがえました。
 作者の児童文学への意欲や、作品に込めた思いを読み解きながら、「ポプラズッコケ文学新人賞」にふさわしい作品とはどのような作品かと、議論を深めていきました。そこで得た総意は、「ズッコケ三人組」を遺された那須正幹先生の作品に似ている作品ではなく、今の時代の子どもたちに向けて児童文学を書ける作者による新しい作品ではないか、ということでした。その結果、ことさわみさんの「天使の恩返し」が大賞に選出されました。

 「天使の恩返し」はクラスメイト3人の入れ替わりを描いた作品です。3人が入れ替わるというところが目新しく、先を読みたくなる展開で読者を引っ張る筆力が評価されました。選考委員一同、ことさわみさんの今後のご活躍を期待しています。

 「編集部賞」については、最終候補作品はいずれも課題が多く残ることから、協議の結果、残念ながら今回は該当作なしとしました。詳しくは、講評をご覧いただければと思います。

 なお、「ポプラズッコケ文学新人賞」は、リニューアルを予定しているため、2024年は募集いたしません。次回につきましては、概要が決まり次第HP上で発表いたします。
 子どもたちがワクワクし、夢中になって読める作品をこれからもお待ちしております。

総評

 ポプラ社の社内選考委員13名に私がくわわった最終選考委員会の総意で「天使の恩返し」への贈賞が決まりました。
 「天使の恩返し」は、現代の『とりかえばや物語』です。平安時代末期に成立したという古典の『とりかえばや』は男児と女児の2人が入れ替わる物語でしたが、これは、天使の手配で、3人の女子中学生が、なんと2回にわたってチェンジします。作者は、この複雑でボリュームのある長編を、3人のうちで一番平凡な「ひとみ」の語りで書き切る筆力の持ちぬしです。物語が語り終えられたとき、入れ替わりによって、3人それぞれが心の奥にかかえ込んでいたもの、願っていたことが明らかになったのでした。
 私は、最初に読んだとき、「マンガ」みたいなストーリーだな、でも、何だかおもしろいぞと思いました。「マンガ」というのは、決して、けなしことばではありません。「小説」のように書いたら、前後の「整合性」や「リアリティー」といった問題に足をとられて、この奇想天外な物語を書き終わることができなかったかもしれません。作者のこのおおらかで楽しい書きぶりをさらに生かして、受賞作が単行本になるようにと祈ります。

 最終候補作品は、このほかに4編ありましたが、「この色もわたしだから」は、もう少し「小説」でした。そのために、読者としては、欠点を消す魔法が何度も使われることや主人公の幼なじみにLGBTQ+の問題を託したことにも息苦しさを感じるようになります。
 「満面の笑みで忍者ポーズをとる、ちぐはぐなおれたちがいる」は、重い病気で新体操部をはなれた主人公が「忍び同好会」に入って忍者ショーで活躍する物語です。忍者ショーは病院の中庭で披露されますが、選考委員会では、主人公がこのあいだまで過ごしていた小児病棟の子どもたちに寄りそう視点が欠けているのではないかという指摘があり、それには、みんな、うなずかざるをえませんでした。
 「誰も知らない僕らの一日」は、切れのいい文章で書かれています。ただ、「ループ」の話ですから、繰り返しが物語に退屈さを呼び込んでしまいます。また、作品に仕掛けられたなぞの全部が解き明かされないままに物語が終わったのが残念でした。
 「船は空に、思い出は花に。」では、「発達障害のグレーゾーン」といわれる主人公が絵を描くことをとおして人とつながっていきます。しっかりしたストーリーですが、主人公の語りが大人びていて、子どもの文学の文体ではないように思います。小学6年生の主人公の心とからだに対する想像力が求められます。

  • (特別審査委員 宮川健郎)

受賞作品

大賞 副賞100万円

受賞作(大賞)
「天使の恩返し」ことさわみ
受賞のことば

 小さい頃から本が好きでした。本の世界に入り込むと呼ばれても気づかず、怒られるたびに「おもしろいからしょうがないじゃん!」と開き直っていました。保育園への道中、お気に入りのぬいぐるみの冒険譚を話すのに夢中になって、溝に落ちたこともあったらしく。お話を考えるのも好きでした。ただ、作家を夢みて書き出してみると、子どもの頃の私には終わりまで書ききることが難しかった。押入れには途中でやめたノートがたくさん封印され、いつしか書くことからも離れていました。

 月日は流れ、だいぶ大人になり。
 ふと、再び書き始めると……ちゃんと「完」まで書き上げられるようになっている!
 書き上げたら、次には誰かに読んで欲しいという願いが芽生え、「本になったらいいなあ」と、再び夢もみるようになりました。

 選考に携わってくださったみなさま、このたびは栄誉ある賞に選んでいただき本当にありがとうございます。夢への第一歩が踏み出せたこと、とても嬉しいです。

 本はいつも私の身近にあって、時間を忘れて夢中になったり、勇気をくれたり、きっかけをくれたり。悩んだときにふと手にとった本が、たくさんのヒントをくれることもありました。私が本からたくさんの支えをもらってきたように、子どもたちのこれからをそっと支える作品を作り続けていけたら幸いです。応援してくれる家族、友人にも大感謝。歳を重ねるのもいいもんだ!

  • こと さわみ

あらすじ

 平凡な自分にモヤモヤとした気持ちを抱えていたひとみは、交通事故に遭い、病室で気づいた時にはクラス一の美少女で人気のあるしずかになっていた。驚くひとみに天使は入れ変わりの奇跡について「なりたい人が一致した3人が同じ事故に遭った」と説明する。ひとみはしずかにあこがれていたが、しずかがなりたかったのはクラス一の嫌われ者、押川さんだった。ひとみはしずかとして過ごすうちに、人気者の大変さを実感する。今度はしずかがひとみになりたいと言い出し、ひとみはしぶしぶさらなる入れ替わりを受け入れる。意外な一面をたくさん知り、仲が深まる3人。別人になることの苦労と互いの良さも知り、納得して元に戻るが、押川さんは死んでしまう。残されたふたりは自分のやりたいことに、自分らしく向き合っていく。

選評

 平凡な主人公が、憧れのクラスメイトと入れ替わるという、読者の願望をかなえてくれるファンタジー作品です。「入れ替わり」はよくある設定ですが、3人が入れ替わるというところが新しく、いい意味でライトな内容でありながらも、登場人物それぞれが、それぞれになりたい動機がしっかりと描かれており、感覚的な部分ではリアリティーを感じさせるところが評価されました。読者の子どもたちが、クラスであまり関わることのなかったクラスメイトに話しかける勇気をもらえる作品だと思います。天使のキャラクター設定や、物語のラストの展開については再考の余地がありますが、構成力の高さも感じられ、本の形になるのが楽しみです。
  • (選考委員一同)

最終候補作品

「この色もわたしだから」風川一夏

あらすじ

 中学1年生の心春は、友だちができない。ある日祖母の遺灰をまいた海にある、夢見岩という願いを叶えてくれる岩に「欠点を消す力をください」とお願いした。すると祖母がくれたマスコットのきなこが話し出して、心春のひっこみ思案な性格を消し、その性格が石となって現れる。心春は早速友だちができたが、欠点を消したことで本当の自分がわからなくなってしまう。欠点も素敵な個性だと気づいた心春は欠点を戻してくれるようきなこにお願いする。実はきなこの中には亡くなった祖母の魂が宿っていて、心春の成長を見守っていたのだった。心春はこれからも個性を大切にしようと心に決める。

選評

 教室内のカーストや思春期ならではの悩みがファンタジー要素を盛り込みながら描かれ、読者である子どもたちからの共感を得られる作品だと思います。また、欠点が実は素敵な個性だという作者のメッセージに好感がもてました。身体的な特徴も欠点として消せてしまう設定には少し疑問を感じるところがあり、ラストについてはもう少し丁寧に描かれると良かったでしょう。設定の年齢に対して物語が幼いので、実際の子どもたちについて知る機会を持たれると今後の作品づくりに役立つと思います。
  • (選考委員一同)
「満面の笑みで忍者ポーズをとる、ちぐはぐなおれたちがいる」棟方香吏

あらすじ

 元新体操部の律は、白血病との闘病生活を乗り越えて中学3年生で復学した。忍び同好会に入りメンバーと関わるうちに少しずつ心を開いていく。ある日、担当医師に病院の中庭で忍者ショーをやらないかと言われ、メンバーと練習を始め、だんだんと形になっていく。そんな中、新体操部で一緒だった新太が忍者ショーに加わり、さらに部活を引退した新体操部員たちも加わる。元新体操部員と忍び同好会メンバーのバラバラだった気持ちや個性が、忍者ショーを通してひとつになる。

選評

 「忍者」というテーマに集まってくる登場人物たちが生き生きと描かれ、楽しく読める、児童文学らしい作品でした。主人公が自ら動き、いろいろな個性を持つ仲間たちと忍者ショーを一緒に作り上げていくエンターテインメント作品として構成もしっかりとしており、忍者ショーで終わるラストも良かったと思います。主人公が白血病という大変な病気に向き合ってきたという設定をきちんと描けていなかった点が残念です。
  • (選考委員一同)
「誰も知らない僕らの一日」山橋和弥

あらすじ

 翔は火山調査を行う父に連れられ、何でも願いが叶うといわれている夢見島を訪れる。そこで同い年の少女、悠里と出会う。ある夜、翔と悠里は崖から海に落ちてしまう。そこから繰り返しの一日が始まった。100日が経過すると、繰り返しのループから抜け出せた。しかし家に帰る途中、夢見島が噴火して島民全てが亡くなったと知る。ループの法則に気づいた翔は、悠里を助けるために100日前に戻る。

選評

 高い文章力と、今の子どもたちの感覚にフィットしそうな目線で描かれた内容が評価されました。主人公が高校3年生で、児童書としては主人公の年齢設定が高めです。悠里を助け噴火から逃げる場面は手に汗を握りました。ループがなぜ起きるのか、政府の陰謀とは何だったのか、最後に描いてほしかったです。また、島民全員が死ぬことを選びますが、島民と「死」の扱いについては丁寧さがほしいと思いました。
  • (選考委員一同)
「船は空に、思い出は花に。」あらき恵実

あらすじ

 主人公南海音は、発達障害のグレーゾーンにあるボーイッシュな女の子で、まわりになじめないという悩みを抱えていた。小学6年生の4月に転校し、夏川晴空という男の子に出会う。認知症の祖母の世話を生活の中に受け入れて生きる晴空は、自分と違う存在をごく自然に受け入れられる少年だった。絵に突出した才能を持つ海音は晴空の助けも得て、クラスの旗の制作を任される。心の成長と淡い恋を描いた物語。

選評

 心情が丁寧に描かれている点について評価されました。グレーゾーンの悩みを抱えている子どもにとっては、その存在を当たり前のものとして受け止めてくる晴空のような子は希望を与えてくれる存在だと思います。その説得力やリアリティーを高めるためには、なぜ晴空がグレーゾーンの海音を完全に理解して接してくれたのかをもう少し深掘りしてほしいと思いました。また、晴空がなぜ海音に惹かれたのかは物語にとって重要な要素ですが、じゅうぶんに描かれておらず残念でした。
  • (選考委員一同)

選考経過

応募総数168編。

1次選考の結果、以下の10編が2次選考に進みました。

タイトル名 著者名 2次選考通過
珈琲はまだはやい かわぞえゆきこ
五十年の時を超えたら 黒瀬のりこ
三人と鳥飼くん 羽馬羊
船は空に、思い出は花に。 あらき恵実
満面の笑みで忍者ポーズをとる、ちぐはぐなおれたちがいる 棟方香吏
誰も知らない僕らの一日 山橋和弥
『うれしがらせ屋』 堀之口れい
天使の恩返し ことさわみ
この色もわたしだから 風川一夏
ミンミン・サバイバル! 松井望

※応募受付順、敬称略

本になったこれまでの大賞・優秀賞・奨励賞作品

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