第1回ポプラズッコケ文学新人賞
今年、フレッシュな才能を求めて新たにスタートいたしました「ポプラズッコケ文学“新人”賞」にご応募いただいた皆様、まことにありがとうございました。
全部で253編のご応募をいただきました。
新しい賞としての募集の告知から締切までが短かった関係か、前賞よりも応募総数が少なめでしたが、若い方々からの、気合いの入った、新しさを感じさせる作品が多かったと感じられ、選考も期待にあふれる中で行われました。
二次選考に残った11編は、いずれもオリジナルの世界を展開させ読み応えがありました。その中で、視点やテーマのまとまりに欠けたり、文章力の未熟さが残念に思われる作品は最終選考に残すことができませんでしたが、それぞれ期待を感じました。
最終選考に残った5作品は、どれも文章力は一定のレベルをクリアしており、それぞれのよさがありました。一方、同じくらいの欠点や課題も併せ持っており、今年も選考は難航することとなりました。長時間の話し合いの結果、どの作品も魅力的ながら「子どもたちがワクワクし、夢中になって読める児童向け作品」という本賞の趣旨にぴったりと沿うとはいえず、今回はまことに残念ながら、該当作品なしとさせていただきました。
このような結果は私どもにとっても非常に残念なことですが、読者にいまも愛される「ズッコケ三人組」シリーズのように、子どもたちが本当に読みたくて読む、子どものためのエンタテインメント児童文学作品を本気で探していくという決意を新たにした次第です。出版社としての努力不足を反省しつつ、みなさまにも本気で面白い作品の創出に取り組んでいただき、第2回ズッコケ文学新人賞へのご応募をお願い申し上げたいと思います。よろしくお願い申し上げます。
大賞 該当作品なし
- 『参るぞ、シノブくん』サクライマサミさん
- 小学6年生の男の子奥山シノブは、学校では「ドンがめ」とあだ名されるほど運動ができない。父親はシノブが赤ちゃんのころから行方不明で、母親は父が戻ってくるのを信じて待ちながら暮らしている。ある日突然白い煙にまかれてシノブはおそわれ、母親がさらわれた。シノブを助けた三人は、自分たちは現役の忍者だと名乗り、シノブこそは伝説の忍者奥山草々の一人息子だと言い渡す。三人とともに、草々のあと忍者の長となった半四郎にさらわれたらしい母親を助けに行く中で、それまでかけられていた枷をはずされ、シノブは次第に忍術に目覚めていく・・・・・・。
現代になじみながら活動している忍者組織という下地の設定がユニークなエンタテインメント作品。読みやすく、独特なユーモアセンスのある文章で読ませる。おかあさんを助けたい、おとうさんにあいたい、というシノブ少年の気持ちがいじらしく、つい応援したくなるし、仲間の忍者三人・・・とくにヒグマの着ぐるみを着たはずかしがりやの忍者のキャラクターも面白い。一方、忍者世界の描き方が雑なのが残念で、設定を生かしてもっとおもしろくできる余地があるので期待したい。
サクライマサミさんは、第2回ズッコケ文学賞の応募作が最終選考で複数の選考委員の支持を集め、印象に残っていた応募者。前回とは全くちがったテイストの作品での挑戦に驚かされ、実力の確かさを感じた。
- 『オレと誠二と、オカマと片桐』吉田美香さん
- 中学に入学した木村拓海のクラス担任赤沢は、オカマでスポコンの熱血教師だった。拓海は俊足を見込まれて赤沢が顧問をつとめるバレー部に熱烈に勧誘され、仕方なく入部する。ほかに1年生の仲間は、体は大きいが運動神経には難がある片桐、幼なじみで野球しか知らない誠二だけ。赤沢のセクハラまじりのユニークな猛特訓と、頼もしい先輩の指導のもと、拓海たちは次第に本気になり、一致団結して都大会優勝をめざす。
とにかくテンポが軽快で、カラッとした下品さがあり、最も印象的だったかもしれない作品。ただ、軽快さだけで全体的に浅すぎる内容が難点となった。先生がオカマである必然性がはたしてあったのか? 先生の生徒へのセクハラまがいの行動についても、児童文学での表現としては考えさせられる。誠二と片桐の人物の書き込みもほとんどなく、タイトルに出すほど重要な要素になっていない。にもかかわらず全体にあふれる明るさがあり、楽しく読ませる筆力は突出しているので、ぜひ一段階内容を深めたエンタテインメント作品に挑戦してほしい。
- 『卒アル@職アル』藍澤誠さん
- 小学六年生のひとクラスの、卒業までの半年を描いた作品。かれらの卒業アルバムにのせる作文のテーマは、「将来、どんな職業につきたいか?」。なかなか決められない子、「悪魔」と答える子、それぞれの子の事情が淡々と描かれる。とりまとめるのはみんなの人気者、“ぜったいに怒らない”テツロオ先生。しかしある日、テツロオ先生が学校からいなくなった・・・・・・。
展開も文章も細切れで一見散漫に見える文章だが、非常にコントロールされており、バラバラにならない書き方に新鮮さがあった。個性的な子どもたちを文章の上でリアルに創作しており、読ませる力がある。「少年ジャンプ」や『三国志』に夢中になる様子もそれらしくて面白い。「絶対に怒らない先生」ということが重要なモチーフになっているが、「普通の先生ならば絶対怒るところでもテツロオ先生は怒らない」というような具体的なエピソードがないために説得力に欠け、作品全体でうったえかけてくるものが薄くなっているのが残念なところ。また、生徒の作文をシュレッダーにかける先生というのは現実には考えられず、書きすぎの感があった。適性が児童書向きかとの懸念はあるが、別の作品をぜひ読んでみたい。
- 『スリーピース バンドハジメました』川上歩さん
- 出席番号万年1番に悩む浅田ハジメが、中学校に入学して初めて2番になったと思ったら、1番の阿久津佑二から「パンクロック」に誘われた。強引さに尻込みするハジメだが、猪突猛進型の幼なじみ海斗に追い立てられ、マネージャーとしてバンド活動を手伝いはじめる。次第にその声が認められ、気が付くとボーカル担当に――。問題を起こす阿久津と海斗に振り回されながらも、さまざまな出会いやできごとのなかで、自分の本当の気持ちと向き合っていくハジメの成長を描いた作品。
5作中もっとも読みやすいと評価が高かった。なにかと目立つことを嫌がり消極的な主人公ハジメをはじめ、それぞれの子どもたちもよく書き分けられている。全体に流れる明るさが心地よい作品。読者対象が明確で本の形が見えやすい点も評価したい。だが、物語の大きな道具として登場させている「パンクロック」がまったく書けていないことが大きな欠点。バンドを題材に描くからには、ぜひ音楽を感じさせる表現、描写を会得してほしい。もしくは、「パンクロック」である必然性はあったか?を考えたい。しかし作品全体のさわやかさや、成長物語に取り組む姿勢に、今後を期待したい。
- 『でぶにい』三角ピラミッドさん
- 特異な性質をもって生まれた神社の双子、千依紗とでぶ兄の物語。人のマイナス感情だけをひろってしまう千依紗と、逆にマイナス感情を一切感じないでぶ兄。妬みや悪意のはびこる学校では体調を崩しうまくすごせない千依紗だったが、敬愛する神社のご神体の大楠さまに会うためにはそれを克服しなければならない。試練を乗り越え、大楠さまから授けられたアメ玉を口にしたでぶ兄は、初めて大量のマイナス感情に触れて苦しむようになる。それを見て千依紗は恐れるが、兄を助けるために、自分もアメを口にし、二人はお互いのことや周囲のことを深く理解していく。
デリケートな少女の内面を丁寧に描写しながら成長を描いている点が好印象。特殊な状況下で、兄弟の関係がかわっていくなかでの感情の変化が面白く書けている。「人の負の気持ちを拾ってしまう」という設定がユニークで、12歳くらいの子どもたちが抱える悩みの一面に果敢に挑戦している点を評価したいが、単純に「よい」「わるい」と割り切る書き方に問題や疑問も多く残る。また、タイトルに据えるほどには兄の「でぶ」という設定に必然性がなく、あえて強調する言葉としては好ましくないと感じられた。だが、内面にここまで踏み込んだ作品は今回の応募作のなかでも稀少で、印象に強く残った。今後の繊細な書き込みの作品に期待したい。
応募総数253編。
10名の編集者で分担を決め、1次選考。判断に迷う作品については2名以上の編集者が読んでいます。
その結果、以下の11編が2次選考に残りました。
タイトル名 | 著者名 | 最終選考に残った作品 |
終わらないかくれんぼ | 高森美由紀 | |
参るぞ、シノブくん | サクライマサミ | ● |
僕たちの挑戦 | 尾道たかし | |
アキラのミサンガ | 畑江亜寿香 | |
マサルのおねがい | 才野美々香 | |
オレと誠二と、オカマと片桐 | 吉田美香 | ● |
憂鬱な季節 | 北原未夏子 | |
職アル@卒アル | 藍澤誠 | ● |
スリーピース! バンドハジメました | 川上歩 | ● |
でぶにい | 三角ピラミッド | ● |
正しい虹の見える場所 | 円井七三 | |
※応募受付順、敬称略
2次選考では、9名の編集者が11編の作品すべてを読んだ上で議論を戦わせ、5編の作品を最終選考に残すこととなりました。
最終選考は、選考委員長の那須正幹先生と、弊社社長及び9名の編集者で行いました。
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